糖シグナル伝達機構と応答機構

 植物は空気中の炭酸ガスを用いた光合成によって糖を生合成しています。合成された糖は、エネルギー源として用いられるだけでなく、植物体内でホルモン様の活性を示し、遺伝子発現制御や代謝調節を介して植物の成長・老化、形態形成や花芽形成、物質生産を調節しています。
 糖による制御は実に複雑ですが、その一端として、私たちは糖シグナル伝達系とストレスホルモンであるエチレンの情報伝達系のクロスロークの仕組みを明らかにしました(Nature 425, 521-525, 2003)。このクロストークはエチレン情報伝達の鍵を握る転写因子として同定されていたEIN3タンパク質の分解を相異なる二つの情報伝達系が拮抗的に制御することによってもたらされることを示し、また、EIN3の分解の鍵を握る因子の特定にも成功しました(Cell 115, 679-689, 2003; Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101, 6803-6808, 2004)。この例に示されるように、植物の栄養シグナルと植物ホルモンなどの他のシグナル伝達物質が植物の成長や物質生産を協同的に制御しており、そのための巧妙な仕組みが存在していると考えられます。このような協同的制御も含めて、糖シグナルによる植物の成長制御と物質生産制御の全容の解明を目指しています。最近、糖シグナルがrRNA前駆体の成熟過程を調節してリボソームの生合成を制御していることを明らかにしたことから(Mol. Plant, 9, 312-315, 2016)、糖によるリボソーム生合成の調節の分子メカニズムにも関心を持っています。

代表的な公表論文

  • Ishida, T., Maekawa, S., Yanagisawa, S. (2016) The pre-rRNA processing complex in Arabidopsis includes two WD-domain-containing proteins encoded by glucose-inducible genes and plant-specific proteins. Mol. Plant 9: 312-315.
  • Aki, T., Yanagisawa, S. (2009) Application of rice nuclear proteome analysis to the identification of evolutionarily conserved and glucose–responsive nuclear proteins. J. Proteome Res. 8: 3912–3924.
  • Gagne, J. M., Smalle, J., Gingerich, D. J., Walker, J. M., Yoo, S.-D., Yanagisawa, S., Vierstra, R. D. (2004) Arabidopsis EIN3-binding F-box 1 and 2 form ubiquitin-protein ligases that repress ethylene action and promote growth by directing EIN3 degradation. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101: 6803-6808. [Abstract]
  • 柳澤修一 (2004) 植物におけるシグナル伝達系のクロストーク: 転写因子の分解の制御が鍵. 蛋白質・核酸・酵素 49: 2131-2138.
  • 柳澤修一 (2004) 植物の生長を決める巧妙な仕組み: エチレンシグナルと糖シグナルのクロストーク. ブレインテクノニュース 101: 19-23.
  • Potuschak, T., Lechner, E., Parmentier, Y., Yanagisawa, S., Grava, S., Koncz, C., Genschik, P. (2003) EIN3-dependent regulation of plant ethylene hormone signaling by two Arabidopsis F-box proteins: EBF1 and EBF2. Cell 115: 679-689. [Abstract]
  • Yanagisawa, S., Yoo, S.-D., Sheen, J. (2003) Differential regulation of EIN3 stability by glucose and ethylene signalling in plants. Nature 425: 521-525. [Abstract]

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